今週の一枚 back number『大不正解』

今週の一枚 back number『大不正解』 - 『大不正解』通常盤『大不正解』通常盤
スラップベースとリフとシンセのデッドヒートの如き焦燥炸裂なイントロから、灼熱のダンスビートとともに《僕等は完全無欠じゃ無い/原型を愛せる訳でも無い》と清水依与吏の歌声が突き上げる時点で、ポップとロックの問答無用の全能感を四方八方に放射するかのような、圧巻の高揚感とダイナミズム。
前作『瞬き』までラブソング/バラード中心のシングル曲群を通して、バンドの総合力を真摯な「うた」に注ぎ込んできたback numberは、この“大不正解”で情熱もシニカルさも闘争心も全開にして、ロックバンドとしての存在証明を高らかに響かせてみせた。

映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』の主題歌として書き下ろされた“大不正解”。シングル発売に先駆けて公開された特設サイトのメンバーインタビューで、清水は「映画サイドからは『熱い友情をテーマにしてください』という話があったんですが、じつはいちばん避けてきたテーマなんですよ」と語っているが、《安い化けの皮を/噛み付き合い 剥ぎ取り合って/互いを見付けて来たんだろう/補い合うのなんざご免なんだ/さぁ好きに踊ろうぜ》というキラーフレーズで「友情」という観念に疑いの弾丸を撃ち込みまくった果てに、それでも残った「信じられるもの」だけを全力で輝かせていることがリアルに伝わってくる。


back numberはそれこそ“瞬き”、“ハッピーエンド”、“クリスマスソング”など珠玉のラブソングを次々に世に送り出して時代の表舞台に躍り出る一方で、“ネタンデルタール人”、“ひとくいにんげん”といったアグレッシブなルサンチマン暴発ナンバーを通して己の衝動とアイロニーを解き放ってきた。“大不正解”は明らかに後者の楽曲である。
しかし、たとえば“クリスマスソング”で《聖夜だなんだと繰り返す歌と/わざとらしくきらめく街》とクリスマスの多幸感や祝祭感を徹底的に疑い尽くしながら《君が喜ぶプレゼントってなんだろう/僕だけがあげられるものってなんだろう》と「それでも揺るぎない想い」の在り処を確かめていた姿勢と、この“大不正解”で《誰になろうとしているんだ/最後はいつも自分を疑わないのに》とギリギリの切迫感を聴く者に突きつけるような挑戦的なマインドとは、一見対極ながら実は分かち難く表裏一体のものだ。

『ROCKIN’ON JAPAN』9月号で筆者は“大不正解”について「back numberの表現における“裏”と“表”を、対世間的に初めて位相転換させた決定的瞬間である」と書いたし、それは間違っていないと思う。
が、現在開催中の初ドームツアー「stay with you」や先日の「SUMMER SONIC 2018」のステージでも披露された“大不正解”の圧巻のスケール感を目の当たりにして、もはや裏も表も関係なく歌とロックを胸のど真ん中に奥深く叩き込んでくるback numberの/清水依与吏の「今」の訴求力に、改めて驚愕と感激を抑えきれなかった。快進撃の号砲を自らぶっ放したような、どこまでも痛快な1曲だ。(高橋智樹)
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