今週の一枚 吉井和哉『クリア』

今週の一枚 吉井和哉『クリア』

吉井和哉
『クリア』
2015年1月28日発売



THE YELLOW MONKEY時代の古巣であるTRIADに復帰してリリースされる、移籍第1弾シングル。

というこのシングルの立ち位置からすると、“クリア”の印象はかなり意外だった。アコースティックギターのカッティング、軽やかなセカンドラインリズム(「ジャ・ジャ・ジャ・ジャッジャッ」というニューオーリンズ発祥のリズム)、空に突き抜けていくようなゴスペルコーラス。《いい感じ 眩しい 気分は/ボ・ディドリー》?

でもまさにそのとおりなのだ。「いい感じ」に気分がよく、すべてが「クリア」に澄み渡っている。ここから新しいストーリーが始まる、その解放感と高揚感が曲全体を貫いている。今までがどうだったかとか、自分が築き上げてきたものとか、そういうものを身軽なジャンプで飛び越えて、そのまま両手を広げて飛ぶ。そんなイメージ。気持ちいい。

なぜこんなにもポジティヴなのか。それは、この“クリア”が始まりの歌であると同時に、「それまで」にちゃんと別れを告げる曲でもあるからだ。セカンドラインはそもそもは葬列のブラスバンドがルーツとなっているリズムだ。ゴスペルが宗教音楽であることはいうまでもない。この曲は去りゆくものを華やかに送別する、「決別」(吉井は『ROCKIN'ON JAPAN』2月号のインタヴューで「卒業」という言葉を使っていた)の歌なのだ。

《さよならする時が来た
笑顔でまた逢う日まで
お互いこれから長い
道のりだけどお元気で》

昨年11月にリリースされたカヴァーアルバム『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』は、吉井が自分の中にある歌謡曲や演歌のDNAと真正面から向き合った、ものすごく「重い」1枚だった。ここ数年、吉井は自身のルーツを深く掘り下げながら自分が歌うべき歌を探し続けていたように思うし、ソロ10周年を経て、「吉井和哉」にひとつの決着をつけるタイミングを迎えてもいた。カヴァーアルバムはじつはその総決算ともいえる作品だった。

そこからの『クリア』。できすぎな話かもしれないが、明らかに吉井は何かにケリをつけている。重たい荷物を下ろして、身一つで次の10年に向かっている。

どっしりと腰を落ち着けたアレンジではるかな旅立ちを歌うカップリングのバラード“ボンボヤージ”、ファン投票によって選ばれたTHE YELLOW MONKEY楽曲のライヴトラック集「“Welcome back to TRIAD”Live Tracks」も合わせて、ストレートに「新しい吉井和哉の始まり」を刻んだシングルだ。
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