今週の一枚 ポルカドットスティングレイ『一大事』

今週の一枚 ポルカドットスティングレイ『一大事』 - 『一大事』通常盤『一大事』通常盤
昨年リリースされた1stフルアルバム『全知全能』は、ポルカドットスティングレイとして持てるものすべてを見せつけてくれたような、そして、彼女たちの表現の幅の多面性を存分に感じさせてくれたバラエティに富んだ作品だった。1枚目でそこまでのものを提示してくれたのだから、次作への期待も自ずと高まる。タイトルひとつとっても、『全知全能』以上のものがあるとしたら、どんなものなのだろうと密かに期待していたりした。そしてその『全知全能』から約半年。ポルカの新作ミニアルバムが完成。タイトルは『一大事』。そうきたか!

この作品を聴いて、ポルカの「多面性」というものを私はまだまだ甘く見ていたのかもしれないと思った。『全知全能』では、おそらくかなり意図的に多様な楽曲を収録し、ポルカドットスティングレイとはジャンルや枠組みに囚われない音楽集団であることをリスナーに十分に認知させたし、その引き出しの多さは結成からまだ3年のバンドとは思えないほどの作品だったのだが、驚くべきことに前作からの半年で、ポルカの表現の「幅」はさらに大きく広がった。『一大事』というタイトルも伊達ではない。印象的なリフとキャッチーなメロディが一聴したら頭から離れないタイトル曲の“ICHIDAIJI”は、例えば“テレキャスター・ストライプ”や“エレクトリック・パブリック”に並ぶ、ポルカのダンスロックのキラーチューンと言えるものだが、バンドサウンドの洗練、成熟という点において、雫(Vo・G)のボーカルも含め、相当高いレベルにまで到達した見事なポップミュージックである。エジマハルシ(G)のギターも、彼独特のフリーキーさはそのままに雫の歌を際立たせる引きの計算も緻密になされているように感じるし、ウエムラユウキ(B)とミツヤスカズマ(Dr)が支えるリズムは、ポルカならではのグルーヴを生んでいる。そう、この楽曲が感じさせたのは、まだまだ無限に広がるポルカのジャンルレスな音楽性のみならず、その多様な音楽性の中で、はっきりと自分たちの強みを表現するポルカサウンドの確立とでも言うべき、縦方向に伸びる進化である。そこがこのバンドのすごさだと思う。「多様な音楽を」と考えれば考えるほど、本来は一つ一つの楽曲の持ち味は薄れていきそうなものを、どこまでも広がっていきながら、深く自分たちのサウンドを作り上げていくことに成功している。

ボーナストラックを含め全6曲、そのどれもがそんなポルカの進化と深化を存分に堪能できるものだが、中でも“リスミー”は、この作品の聴きどころのひとつではないかと思う。音数を最小限にしぼって、雫の歌声をじっくりと堪能できるR&Bテイストあふれるミニマルなスローバラード。雫の歌声も素晴らしいが、ギターの繊細なサウンドに、ハルシの表現の「幅」を改めて見た思いだ。ベースとドラムも音の隙間にグルーヴを生み出すかのような見事な引き算で、洗練されたバンドサウンドを見せつける。1曲目に収録された“少女のつづき”もそうだが、今作はJ-POPという広い枠組みの中でも、格段に高いレベルのポップミュージックとして完成されていると思う。

他にも、ポルカの作品には必ずある、裏キラーチューンとも言うべきハイパーな楽曲“パンドラボックス”、胸キュンもののガールズポップロック“煌めく”など、今回すべて、その音楽性が「広がりながら深まっている」と感じさせる楽曲ばかりである。屈指のライブバンドでもある彼らのこと。6月のリリース記念のワンマンはもちろん、今年の数々の夏フェスでも、この作品の楽曲で大いに盛り上げてくれることだろう。止まるところを知らないポルカの勢い。その勢いこそまさに『一大事』。今後の活動をさらに期待させてくれる。(杉浦美恵)
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