今週の一枚 空想委員会『純愛、故に性悪説』

今週の一枚 空想委員会『純愛、故に性悪説』

空想委員会
『純愛、故に性悪説』
10月8日発売



空想委員会は今のシーンを席巻する若手バンドのなかでも特別な人気者である。
世代的に新世代ど真ん中のKANA-BOONやKEYTALKより少し上で、お兄さん的な安心感もきちんとあるし、人当たりもいい。
このスタンスはオーディエンスに対しても同じくで、常に開けた、盛り上がり方と楽しみ方を明確に示した上で実際みんなで盛り上がるという、とても親しみ深いライヴを続けてきた。
新たな世代を牽引するクレバーさと、シンガリに回り、層の底をぐっと支えてみせるような頼もしさ。
空想委員会はサッカー日本代表で言うなら、遠藤保仁である。
中盤を底から押し上げ、献身的なプレーで層を支え、ときに決定的な縦パスを出し試合を決める。
空想委員会はそう、「みんなの」空想委員会をまっとうすることでシーンの重要バンドであり続けてきた。

ところが、このシングルはこれまでの手触りと違う。
委員長・三浦隆一(Vo・G)はその内面を吐露し、エゴイスティックともいえる歌を歌っている。
遠藤が突然、自分を指差しアピールする本田を無視し、長い距離のフリーキックを颯爽と蹴り込んでみせる感じ。
しかも、この楽曲はゴールの右隅を狙ったやわらかいタッチのキックじゃない。
キーパーの真正面にダスンと蹴り込まれた渾身の弾丸的ロックナンバーである。
遠藤さん、どうしたんすか? 心境の変化ですか? ってそんな簡単な話じゃない。
なぜなら、この曲は三浦の心のうち、今現在の本心を曝け出した曲だからだ。
男の尊厳。レーゾンデートル。
つまり、「本当のおれを知ってくれ」という一本気の告白である。
男の本気はいつだって面倒で、ややこしくて、だからこそ愛しい。
そういうことになっている。うん、いや、そうだよね?

三浦はこう歌う。
《何回も何回も祈るよ/君よ不幸せであれ》
《いつだって願ってる/君にダメージ与えたい》

エグいパンチラインだ。
「みんなの」バンドとして人気を博してきたバンドが歌うには相当パンチが効いている、と僕は思う。
そして、勇気が必要なことだったとやはり思う。
三浦は今回のシングルについてこんなふうに言っている。
「嫌われてもいいと思ったし、でも今はこういう自分を出したかった」と。
そして、彼はスタッフを説得し、この「性悪説」を地でいく「自分」を素直にストレートに歌にした。
ただし、ここが空想委員会が素晴らしいバンドである所以なのだが、過去最高にさらけ出したこの曲は過去最高にキャッチーなメロディを持っている。
この曲を聴いて、これまでのファンがトゥーマッチな独りよがりを感じることはきっとないだろう。
楽曲のクオリティと爽快さが過去の空想委員会の「楽しさ」を超えているからである。
さらに、佐々木直也(G)、岡田典之(B)も過去最高にエモーショナルで一本気なフレーズを弾いている。
3人が3人ともごまかしや照れや衒いに逃げず、ロックバンドとして裸になっているのである。

ではなぜ、変革のタイミングは今だったのか。
それは、空想委員会にとって今が勝負所だったからだろう。

今年春にメジャー初アルバムをリリースし、夏フェスを行脚し、各地を盛り上げまくったこの夏を経て、名実ともに人気者になった今。
じゃあおれたちこれからどうするのか。
おれたちのよりコアの部分をわかってもらおうぜ――と三浦が思ったのだとしたら、その発想はとても健全なことだと僕は思う。

何をやったっていい、とにかく楽しんでもらおう、という献身主義から、楽しんでもらう道筋にも自分らしさを刻みつける理想主義へ。
これはあれですね、いわゆるひとつの「自分たちの――」というやつなんじゃないだろうか。
確かなクレバーさと健全なコミュニケーション欲求を追い風に、「自分たちのロック」をきちんと見つけた空想委員会はやっぱりいい感じだ。
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