今週の一枚 ジョン・レノン『イマジン:アルティメイト・コレクション』

今週の一枚 ジョン・レノン『イマジン:アルティメイト・コレクション』

ジョン・レノン
『イマジン:アルティメイト・コレクション』
1CDエディション/2CDエディション:10月5日(金)発売
スーパー・デラックス ・エディション:10月12日(金)発売


あー、こんなものにも出会えるのか、と呆然としながら聴き終えた。

さんざん聴き倒し、細部の細部まで身体に染み込んでいる歌声やスライド・ギター、ピアノの響き等々が、初めて聴くかのように瑞々しく流れ出してくる。おまけに、その誕生をドキュメントする音源までもが(正規に!)惜しげもなく盛り込まれているのだから、これはファン冥利に尽きるというもの。

ジョン・レノンがイギリス時代に作った最後のアルバム『イマジン』、前作の『ジョンの魂』と並んで彼の最高傑作としてあまりに有名だし、これまでもさまざまな形で親しまれ、影響を与え、タイトル曲“イマジン”はシンボリックにも語られてきた。そんな傑作の決定版〈アルティメイト・コレクション〉が出る。リミックス&リマスターを始め、すべてヨーコの監修のもとに行われ、4CD+2BD(音源のみ)の〈スーパー・デラックス・エディション〉やアナログ盤など、全5パターンがあるが、おそらく一番ポピュラーなのはオリジナル版最新リミックス+シングルズ&エクストラズとエレメンツ・ミックス+アウトテイク集で構成された〈2CDデラックス・エディション〉となるだろう。そちらをじっくりと聴いた。


アルバムはいつものように“イマジン”でジョンの穏やかで温かい歌声が流れ出すが、膨らみが明らかに違って豊かで、被ってくるバス・ドラムの響きが重く、それでいて伸びやかでボーカルとの絡みが大らかに空間を拡げる。今回リミックスを手がけたのは、ジョージ・ハリスンの息子ダニーとバンドメイトだったポール・ヒックスで、彼がヨーコに言われたのは〈ジョンのボーカルをより明瞭に聴かせること〉だったというが、その最成功例が冒頭から聴かされ期待感がマックスになる。ジョージの弾くスライド・ギターとの絡み合いが印象的な“クリップルド・インサイド”や、同じくスライドのシャープなキレでボーカルを盛り上げる“真実が欲しい”、“イマジン”と同様ピアノの響きと共鳴し合うのが肝の“ジェラス・ガイ”も、やや不安定なボーカルや口笛がさらにリアルさを増し等身大のジョンを身近に連れてくる。

アルバム中もっともエッジの強い“イッツ・ソー・ハード”、逆にもっとも柔らかな“オー・マイ・ラヴ”など、硬軟いずれも歌声の生々しさが増し、スタジオでの空気感まで伝わってくるかのようだし、《キミの傑作と言えば“イエスタデイ”だけ》とポールへの毒を吐きまくる“ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?(眠れるかい?)”は、ストリングスが控え目になった分、さらに強い存在感を示している。『イマジン』が理想と平和へのロマンチックな思いだけが詰まったアルバムとかってに幻想を持たれても困るわけで、ここには言葉の刃を持たせたら誰も敵わないジョン・レノンがいるし、これもまた『イマジン』の真実だ。


“兵隊にはなりたくない”や“ハウ?”ではエコーがさらに深くヘヴィになった気がするが、これもジョンの好みかなと説得力がある。そして全体にストリングスが後退しているが、これは昔からフィル・スペクターのアレンジに違和感を拭えない僕的には我が意を得たりと言いたくなる。この本編には加えて“パワー・トゥ・ザ・ピープル”や“ハッピー・クリスマス(戦争は終った)”といったシングルを中心に6曲のエクストラが入っているのだが、こちらはさらにハードなアタックのボーカルが聴きもので、とくに廃刊になりそうな雑誌『OZ』を支援するための“ゴッド・セイヴ・オズ”でバンド(ドラムはリンゴ)をドライブさせるところはロッカー、ジョンの真骨頂だ。

〈エレメンツ・ミックス〉と題されたディスク2は“イマジン”や“ハウ?”のストリングス・オンリーなどの4曲から始まるが、目玉は“オー・マイ・ラヴ”のボーカル・オンリー・バージョンで、これは本当に素晴らしい。5〜16曲目まではアウトテイク集で、このプロジェクトで新たに発見されたという“イマジン”の最初のデモはピアノ一本だが原石の眩いばかりの気高さに圧倒される。他の楽曲も、歌うたびに大きく変化するジョンのボーカルを中心に選び抜かれたアウトテイクだけに、じつに味わい深くオリジナルを聴き込んだファンほど楽しめるはず。

スーパー・デラックス版では〈ロウ・スタジオ・ミックス〉としたディスク3でエフェクトをかけないスタジオ・ライブ状態の音が聴けたりもするし、ブルーレイではハイレゾ・サラウンド・ミックスが聴けたりと、これまでにないほど多角、多面的に迫ることが出来るようになっており、その精神共々、音楽もまた決して少しも古くはなっていないことを示してくれている。(大鷹俊一)
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