今週の一枚 ハインズ 『リーヴ・ミー・アローン』

今週の一枚 ハインズ 『リーヴ・ミー・アローン』

ハインズ
『リーヴ・ミー・アローン』
2016年3月2日(水)発売

この2016年初春に、要注目のニューカマーのデビュー・アルバムが日本に到着する。彼女たちの名前はハインズ。果たしてその正体は?

ハインズのデビュー・アルバム『リーヴ・ミー・アローン』の、舌ったらずな声で歌われるガレージなサーフ・ポップ、ドリーミー・サイケ節を聴けば「いかにも西海岸っぽいな」と感じるし、一方でどこまでもルーズでラフ、なのにすっきりと無駄のない美しさすら湛えたそのローファイ・サウンドを聴けば、「もしかしてブルックリンあたりの新人?」とも感じたり。

しかし正解はそのどちらでもなく、ハインズはスペインはマドリード出身の女子4人組。そしてマドリード出身、つまりUS/UKのオルタナ・シーンから距離を置いた場所から登場したという彼女たちのバックグラウンドには、『リーヴ・ミー・アローン』を聴くと納得がいく点もある。シーンのトレンドやギミックとは無縁で、天然無添加なそのサウンドの素直さは、ハインズの大きな魅力でもあるからだ。

もともとDeers(シカ)名義で活動していたところを、本格的アルバム・デビューが見えたタイミングでHiNDS(雌シカ)に改名。シカ時代、もといDeersの頃の彼女たちのデモ音源は、まんま90年代のローファイ、グランジ・サウンドを連想させるものだった。アナとカルロッタのツイン・ヴォーカルはたとえばヴェルーカ・ソルトに非常に近いものがあったし、90年代当時のガールズ・パワー、ライオット・ガールの系譜にも連なるリヴァイヴァリストかと私も思っていた。

しかしそれから徐々に、彼女たちの荒削りなサウンドがアルバムに向けて曲が溜まり、集約されていく中でどんどん印象は移り変わり、2010年代の同時代性を纏ったファニーでキュートなサイケ・ポップとしてのポテンシャルがぐんぐん上昇していった。

しかしあくまでもそれは結果論、彼女たちは昨今のネオ・サイケ勢のように幾多の選択肢の中から戦略的にサイケを「ポップ」の手段として選んだわけではないし、たとえば恐ろしくハイ・センスなハイムのように、ローファイやグランジのテイストを今風に刷新してみせる自覚があったわけでもない。アルバム・タイトルにもあるように、まさに「好きにさせてくれない?(Leave Me Alone)」精神で4人の女の子が自分たちの思うがままにDIYでやってみたら、たまたま時代とマッチしてしまった、そういうちょっと拍子抜けするくらいの偶然と幸運がこのアルバムにはある。

そう、『リーヴ・ミー・アローン』は究極にDIYな環境でレコーディングされたのだという。それも納得、奥行きを出すための演出と言うよりも、風呂場で湯気に包まれるようなもわもわしたリヴァーヴ、あさっての方向に脈絡もなく転調したり、加速したりするギター、まさにとりとめのないガールズ・トークのような掛け合いヴォーカル、そのすべてが素人くさくてぎこちないのに、なぜか4人の間で通じ合い、まとまっていく阿吽の呼吸を感じさせる絶妙なアンチ・プロダクション。センスのつば迫り合い、情報処理能力の競い合いと化して来ている昨今のオルタナティヴ・シーンにあって、ハインズの無防備ゆえの強さみたいなものは今改めて新鮮で、愛しい。

ダボダボで肩の落ちそうなオーバーサイズのTシャツやはきつぶしたスニーカー、微妙な丈のデニムやオーバーオール、無造作ヘアと呼ぶにはリアルに無造作すぎるまとめ髪、なのにどうしようもなくキュートな彼女たちのアウトフィットも最高。4月の初来日公演では、どんなユルだぼな演奏で楽しませてくれるか、こちらも見逃せません。(粉川しの)
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