今週の一枚 ディスクロージャー『カラカル』

今週の一枚 ディスクロージャー『カラカル』

ディスクロージャー
『カラカル』
9月25日(金)発売


ちかごろ、これほど待たれていたアルバムも少ないだろう。天才ローレンス兄弟による最強ダンス・ミュージック・ユニットの2作目が、これだ。
 
ファースト・アルバム『セトル』リリース時には21歳と18歳だった。恐るべき早熟の若者による、恐るべきデビュー・アルバムであった。ディープ・ハウス、ガラージ、2ステップ、ダブステップ、デトロイト・テクノ、R&Bなど古今のダンス・ミュージックの上澄みだけをすくって、圧倒的に完成度の高い、メロディアスでメランコリックでコマーシャルなポップスのフォーマットに流し込んだ。バンドであれば演奏技術の習得やバンド・アンサンブルの練り上げ等で一定の時間がかかるところが、機材やソフトウエアの目覚ましい進化は、こういう異様なまでに早熟な天才たちを生んだのである。

それから2年。EDMの嵐が吹き荒れるシーンさなかに投下した新作は、ウィークエンド、サム・スミス、グレゴリー・ポーター、ロード、ミゲルといった旬な若手アーティストをゲストに迎えた完璧な歌ものハウス・アルバムである。先行トラック“Bang That”などを聴いて、アーティスティックなこだわりと実験精神を両立させたようなマニアックな路線にいくかと思えば、ソウルフルで良質な歌メロと、ややノスタルジックでレトロなハウス/ガラージのエッセンスを、クリアで洗練された2015年型のモダンな音色/音響デザインの中に生かした、例によって腰を抜かすほど完成度の高い、とびきりポップでコマーシャルなダンス・ミュージックに仕上げてきたのだ。フロア・コンシャスな快楽度と歌ものポップ・ソングとしての共有度が見事にバランスしている。まさしくプロフェッショナル中のプロフェッショナルの仕事である。

これは個人的にはやや予想外の展開だったのだが、アルバム発売の一ヶ月後にNYのマジソン・スクエア・ガーデンのライヴが決定していることを考えれば、十分納得がいく。英国アクトのセカンド・アルバムのリリース直後のMSGライヴは、最近ではコールドプレイよりも早い出世速度だそうだが、彼らはEDM旋風が支配するアメリカのシーンで本気で勝負しようとしている。EDMとも、ダフト・パンクとも違うディスクロージャーなりのダンス・ミュージックを携えて。そしてその勝算はかなり高いと見る。

前作リリース後の2014年の来日公演は、クールでアダルトなレコードだけではわからない、おそろしく躍動的でフィジカルなダンス・グルーヴ、強力な肉体性、そして観客を煽りまくるライヴ・パフォーマーとしての若々しい熱量が素晴らしかった。『カラカル』の圧倒的に甘美で優雅なエモーションに酔いながらも、ぼくは次の来日公演を待ち望む気持ちを抑えきれないでいる。(小野島大)
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