今週の一枚 クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー

今週の一枚 クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー

クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー
『オンリー・ラン』

2000年代後半からの良質なUSインディー・シーンを象徴していたCYHSYは、2011年にリリースしたサード・アルバム『ヒステリカル』で大きな到達点に達した。

2011年といえば、アメリカでは「いわゆるメインストリーム」がチャート上だけではなく音楽的にインディーのパワーに覆われた時期で、『ヒステリカル』もそうした動きに応える質の高いスケール感のある最高傑作だった。

そして2014年の今、ボン・イヴェールやヴァンパイア・ウィークエンドといったインディー・アーティストがチャートどころか当たり前のようにグラミー候補になる時代にリリースされるCYHSYの最新作は、その延長線上ではなくまったく違うアプローチで作られたアルバムだ。

一言で言えばまったく新たなスタートを告げるアルバム。そしてこのアルバムが素晴らしいのだ。

これまでのCYHSYサウンドに重要な役割を果たしてきたメンバー2人の脱退ということも大きいだろう。シンセが初めて大幅に導入されて、バンドの躍動感というよりもアルバムの物語を伝えるためのサウンドスケープを描くことに重点が置かれている。

そしてそれによってソングライター・ヴォーカルのアレック・オンスワースの才気が自由奔放に解放された、絶妙にポップでフリーキーな作品になっている。アレックのヴォーカリストとしての強烈な個性もより全面に出ている。

新しい時代とともに新しいバンド・サウンドを作り上げたCYHSYが、そのエッセンスを抽出して新たな表現に挑戦したアルバムだと思う。

ファンとしては最初とまどいを感じたが、それを消し飛ばすクオリティーと完成度だった。
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