今週の一枚 コールドプレイ『カレイドスコープ EP』

今週の一枚 コールドプレイ『カレイドスコープ EP』

コールドプレイ
『カレイドスコープ EP』
7月14日発売

7月14日にリリースされたコールドプレイのEP『カレイドスコープ』。一見、『美しき生命』のアウトテイク集となった2008年『プロスペクツ・マーチ』と似た趣旨のEPのようにも思えるが、『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』リリースから1年半も経っていることを考えると、新録曲もあることだし、アウトテイク集というよりは『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』のエピローグや後日譚といったものに近い内容になっている。

その最たるものが、ザ・チェインスモーカーズとのコラボレーションとなった“Something Just Like This”の「Tokyo Remix」バージョンが収録されていることだ。今回のEPにはアルバム『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』リリースからほぼ1年後にリリースされたコラボ・シングルであり、各国で軒並みプラチナ・シングルに輝いたこの曲のライブ・バージョンが収録されている。クリス・マーティンの日本語MCも聴ける音源になっているのだが、これこそまさに『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』の帰着点なのだという内容と出来になっているのだ。


たとえばコールドプレイは、作曲クレジットについては必ずバンド内のメンバー4人で共有する、というU2と同じ方式を続けてきたが、基本的にはクリス・マーティンが作曲の中軸となってきたことはよく知られている。その枠の中で、ギター・ロックとしての自分たちの音をどこまで深化させながら同時にポップに鳴らせるか、というのがコールドプレイの試みとなっていた。その過程において、エレクトロ・ポップまで吸収した音楽性を打ち立てていくことになったのである。

しかし、この作曲へのアプローチをよりバンド主体のものへと改めたのが2014年の『ゴースト・ストーリーズ』だ。そしてこれに手応えを感じてバンド主体のアプローチを作曲面でも全面的に展開してみせたのが『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』だった。そのせいか、各楽曲でもクリス以外のメンバーがイニシアティブを握ったような、ファンク的なグルーヴ感の強い要素が増えることになり、こうした要素をエレクトロ・ポップ、R&B、EDMなどとともに飲みこんで、どこまでも拡がりのあるスペクトラムを自分たちのサウンドとして再構築させてみせたというのが『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』の画期的なところだった。


まさにバンド・コラボレーションとしてのコールドプレイを新たに打ち出すことに成功したわけで、だからこそ、ザ・チェインスモーカーズとのコラボレーションとなった“Something Just Like This”もまた、『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』の楽曲群とも地続きなものになっている。それがまさに、今回のプロジェクトの着地点として感じられるのだ。それに、会場の観客が延々と合唱するこの音源を聴いていると、コラボレーションとしてコールドプレイそのものでしかないこの境地を生み出すことが今回のプロジェクトの目的だったのではないかとしか思えてならないのだ。

その一方でオープナーの" All I Can Think About Is You "はまさにコールドプレイのバンドとしての現在が刻み込まれた名曲。特に後半のコーラス以降の展開はコールドプレイならではのカタルシスが炸裂するものとなっているが、冒頭、ヴァース部分でガイ・ベリーマンがみせるベースのグルーヴとクリスのヴォーカルの絡みによって演奏が積み上がっていく展開が素晴らしい。今回のEPは8月から始まる北アメリカ・ツアー、そしてそれに続く南アメリカ・ツアーをさらに盛り上げるためのリリースでもあるはずだが、その中でこの曲は特に大きな役割を果たしていくような予感もする。


2曲目の"Miracles (Someone Special)"はガイとドラムのウィル・チャンピオンのリズム・セクション、ギターのジョニー・バックランドがビートとファンクを追求するトラックとなっている。まさに『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』のテーマやモチーフの一環となっている曲そのものだといえる。後半ではビッグ・ショーンがMCを聴かせるという展開もあり、どこまでも攻めの曲となっているが、コーラスでは一転して王道ロック・バラードへと転調するところがたまらないところだろう。


今回のEPについて、楽曲の詳細な事情についてはまだよくわからないのだが、最も毛色が変わっているのはブライアン・イーノとのコラボレーションとなった3曲目の"A L I E N S"だ。リズムのアプローチなど、すべてにおいて近日の楽曲の流れと違うもので、ひょっとすると最も新しい試みなのかもしれない。演奏はアシッド・ジャズ的なビートに乗せてクリスが避難民の心象を綴るものになっていて、今回のEPで最もメッセージ性の強い内容だ。今後のバンドの行方としてはこういう方向性も可能性としてあるのかもしれない。


最終曲の"Hypnotized"はある意味で典型的なコールドプレイの非の打ちどころのないポップ・ロック・バラードだが、『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』の制作過程を経て、バンド全体のパフォーマンスに格段のダイナミズムが伴うようになっているのが頼もしいトラック。せわしなさにただ追われ流されてしまう日常の中で、虜にされてしまう人物について歌う曲になっていて、コールドプレイらしいサウンドを聴かせる中で、どことなく『イマジン』期のジョン・レノンを思わせるところもフックとなっている。


というわけで、『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』の流れにおけるひとつのピークと新しい変化の兆しも感じさせるこのEP。ひょっとしたら、今後のバンドの活動を占うものでもあるかもしれない。バンドは現在のツアーを11月にアルゼンチンで終えることになっている。
(高見展)
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