今や新たなロックの主流? 「ツインボーカル」を科学する

昨今の音楽シーンを見渡していて、一つ気付いたことがある。それは、シーンを席巻するバンドの多くが、2人のボーカルを擁する「ツインボーカル」体制である、ということだ。今回は、「ツインボーカル」のバンドだからこそ追求できる表現の可能性について考えてみたい。

まず大前提として、バンドの構成要素を紐解いていこう。要となるのが、ベースとドラム、つまりリズム隊である。そのリズムの上に、ギターやキーボードの音、そしてボーカルが乗ることによって、そのバンド独自の色合いが浮かび上がってくる。3ピースバンドのMy Hair is Bad、リードギターを擁する4ピースバンド[ALEXANDROS](ロックバンドの多くがこの体制を採る)、更にキーボードを加えたMrs. GREEN APPLEなど、バンドの形は様々であるが、一般的には、リズムの上に乗る要素が多ければ多いほど、表現のリーチは広がると考えてよいだろう。

それでは、ボーカルを2名擁する「ツインボーカル」のバンドは、いったいどのような表現が可能となるのだろうか。もちろん、一言で「ツインボーカル」といっても、その意味合いはバンドごとに異なる。ここでは、いくつかのバンドを取り上げながら、それぞれの特徴を解説していきたい。

「ツインボーカル」体制のバンドの多くは、それぞれ異なる「声質」のボーカルが組み合わさることでケミストリーを生んでいるが、その代表格が、King Gnuだ。井口理の清廉で透徹な祈りのような声と、常田大希のダーティーで挑発的な声。彼らの楽曲では、その掛け合いと重なり合いによって、スリリングで広大な物語が紡がれてゆく。その象徴的な例が、"飛行艇"だ。ヴァース(J-POPの「Aメロ」)をメインで担う常田と、コーラス(J-POPの「サビ」)をメインで担う井口。この曲では、2人のボーカルがスイッチする瞬間、一気に視界が開けてゆくような感覚を味わうことができる。この「飛翔感」は、決して1人の歌声だけでは表現し切れないものだろう。


次に、KEYTALKの場合はどうだろうか。繊細な心の機微を的確に表していく首藤義勝。男気溢れるパワフルな歌声でリスナーの心をグッと掴む寺中友将。それぞれのボーカリストとしてのキャラクターは大きく異なるが、それでも、2人の声が重なった時の「一体感」は目を見張るものがある。個人的には、レコーディングやライブの経験を積むごとに、2人の歌声のスイートスポットが重なってきているように感じている。だからこそKEYTALKの歌は、より遠く、より広く届くリーチを獲得することができているのかもしれない。


続いて、それぞれのボーカルが、異なる「機能」を担うタイプについて。例えばMAN WITH A MISSIONは、トーキョー・タナカの「歌」とジャン・ケン・ジョニーの「ラップ」という2つの武器を擁している。彼らが、凄まじい情報量を誇るリリックを、目まぐるしい楽曲展開の中で叩き出すことができるのは、それ故だ。その意味で、「歌」と「ラップ」のボーカルリレーこそが、彼らのハイエナジーなミクスチャー・ロックの中核であるということがわかる。


もう一つの主流が、男女混声のパターンだ。ゲスの極み乙女。は、川谷絵音の「男声」をメインボーカルに据えているバンドである。しかし、"猟奇的なキスを私にして"、"私以外私じゃないの"など、彼らの楽曲では女性目線で物語が紡がれることが多い。基本的に川谷絵音が女心を代弁していくが、まさにここぞというタイミングで、ほな・いこかとちゃんMARIの「女声」が重なり、途端にその物語に鋭いリアリティが宿る。そのスリリングな展開には、毎回ハッとさせられてしまう。


ヤバイTシャツ屋さんは、男女の声を重ねることによって、サビに爆発力を与えているバンドだ。例えば"あつまれ!パーティーピーポー"のサビを分析してみると、こやまたくやの「男声」の上に、しばたありぼぼによる1オクターブ上の「女声」が重なっていることが分かる。もし仮に、これが単に1人だけの声だったら、これほどまでに破格な「パーティー感」は表現できなかったはずだ。(同じく、彼らの代表曲"ハッピーウェディング前ソング"のサビにおいても、一部分を除き、2人の「ハモらない」歌声の重なりが爆発力を生んでいる)


そして、もはや「トリプルボーカル」のバンドであるが、マキシマム ザ ホルモンもこのタイプに当てはまるだろう(メンバーの公式プロフィールの表記を見ると、マキシマムザ亮君は「歌と6弦と弟」、ダイスケはんは「キャーキャーうるさい方」、ナヲは「ドラムと女声と姉」となっている)。これまで紹介してきたパターンを踏まえて分析してみると、ホルモンのミクスチャー・ロックは、圧倒的なインパクトを放つ3人のボーカリストを擁し、「歌」と「シャウト」という異なる「機能」を合わせ持ちながら、同時に男女混声でもある。彼らのパフォーマンスが、超絶怒涛なカオスさを発揮する理由が、改めて浮き彫りになった気がする。


今回、いくつかのバンドをピックアップして紹介したが、唯一無二の「声」と「声」を掛け合わせる「ツインボーカル」の可能性は、まだまだ計り知れないといえるだろう。あなたが次に出会う「ツインボーカル」バンドは、いったいどんな新しい表現の可能性を切り開いてゆくだろうか。(松本侃士)
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