【JAPAN最新号】SEKAI NO OWARI、希望と絶望が織りなす現代の抒情詩『Nautilus』全曲解説レビュー

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01.タイムマシン

アルバムの幕開けを飾るのはアルバムの先行配信シングルとしてリリースされた“タイムマシン”。Fukaseが作詞、Saoriが作曲を担当した、柔らかなメロディが印象的な楽曲だ。昨年のZeppツアー「Terminal」でいち早く披露されていて、そこで聴いたときにも感じたことだが、ピアノとストリングスが描き出す優しいサウンドが、春の麗かさのようにも、冬の夕暮れの寂しさのようにも感じられる、不思議な感触をもった楽曲だ。

《自分が一番好きだった》主人公が《自分より大切な君》と出会い、別れ、その幸せな記憶に縛られた《僕》がタイムマシンに乗って《君》と出会う前の世界に戻ろうとする──この曲はそうしたシーンから始まる。だが、過去に戻った《僕》は、ふたりの出会いの瞬間を目にして《君に出逢わなければ/僕が僕じゃなくなる》と気づき、再びタイムマシンで《君のいない時間へと帰っていく》。《前も見れないけど/上も向けないけど/僕を見つめていこう》。そんな主人公の決意は、この『Nautilus』というアルバムそのものを言い表しているようにも思える。

先月号のインタビューでFukaseは「この2年半くらい風が気持ちいいっていうことをあんまり感じなくなったんですね。あたりまえのように生きてるだけで幸せに感じるような感覚が、体から一切消え去って」と発言していた。そういう状態の中、作曲をメンバーに任せ自身は歌詞に専念するという方法で「生き残った」という感覚が(弱いからこそアンモナイトと違い絶滅を免れた)オウム貝を意味するタイトルに繋がっている。そんなFukaseの心のあり方は、この曲で《3年前のあの日から僕は/何にも進んでない気がするんだよ》と歌われる主人公の気持ちときっと通じている。非常にコンセプチュアルだった前作『scent of memory』と今作の大きな違いはそこにある。このアルバムは向かうべき何かへと突き進んでいった結果ではなく、点と点をかろうじて繋ぐようにして進んできた2年半の記録なのだ。その軌跡をタイムマシンで遡るように、ここから、このアルバムはひとつひとつ確かめ、拾い上げていくことになる。(以下、本誌記事に続く)

テキスト=小川智宏 撮影=太田好治
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年5月号より抜粋)


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