ベストアルバム『I』をリリース。ナノは、何に衝き動かれながら歌っているのか?

ベストアルバム『I』をリリース。ナノは、何に衝き動かれながら歌っているのか?

ライブで外さない曲を入れたいというのもあったし、自分の原点となった曲も入れたかったんです


――どういうベストアルバムにしたいと思っていました?

「最近知った人は『ナノをどこから聴こう?』ってなると思うので、そういうみなさんに対しての『ナノのことを知ってください』というのもありましたし、ずっと聴いてくださってるファンに対しては『今まで、一緒にこれだけ過ごしてきたんだよ。これから先、まだまだ一緒にやっていこうね』という気持ちがありました」

――たとえば、ニコニコ動画に投稿していた頃のオリジナル曲で、ライブでもよく歌う“magenta”が新録されるのは、新しいファンも、昔からのファンも嬉しいはずです。

「ライブでセットリストから外さない曲ってありますけど、ナノを最近知った人は聴いたことがないかもしれないんですよね。だから今回は、ライブで外さない曲を入れたいというのもあったし、自分の原点となった曲も入れたかったんです」

――“magenta”を投稿したのは、2011年11月25日らしいですよ。

「デビュー前でしたからね。この曲は自分のプロとしての第一歩という気持ちで出して、『ここから始まるんだ!』っていう気持ちを込めたんです。実際、この曲から始まったし、1stライブの1曲目もこれでした」

――この曲を作って、気持ちの面でも大きく変わりました?

「変わりました。もともとは趣味としてやっていたけど、責任感も伴った歌に変わった瞬間が“magenta”だったんです。『歌は遊びじゃない。仕事として、いろんな人たちの想い、努力、協力を背負って歌っていかなきゃいけないんだ』っていう重みが一気に生まれたんですよね」

――作曲はダルビッシュPさんとの共作ですけど、どんな思い出があります?

「不思議な作り方だったんです。ディレクターさんも含めて、3人で作ったので。当時はまだLINEがなかったから、Skypeで会議をしながら、夜な夜な『ああでもないこうでもない』って話し合ってました。全員で精一杯話し合いを尽くしたので、熱い想いがいっぱい詰まってます。思い入れは深いですね。墓場まで持っていく曲だと思ってますから(笑)」

――(笑)ボカロ曲の“ロキ”と“ECHO”のカバーも今回収録されますね。

「『昔から聴いてくれてるみんながいるから今の自分が存在する』っていうことを考えると、ボカロカバーは入れるべきだなと。もう一度こういう楽しいことをするチャンスだなというのもあって、この2曲を選びました。“ECHO”は、もともと英語の歌詞なんですけど、“ロキ”は久しぶりに日本語の歌詞を英訳しました。『もともとの日本語の歌詞で表現されてる世界観を、どうやって英語で伝えよう?』って考えるのがすごい楽しかったし、昔、英訳していた時代とは違う感じになってると思います。自分で歌詞を書くようになってからの進化を出せました」

――日本語の歌詞を英語で表現するのって、独特の面白さがあります?

「あります。『この素晴らしい材料をどうやって組み合わせて、世の中に伝えよう?』っていう感覚なので、料理が好きな人が考えることに近いのかもしれないです。材料を違う形にして美味しさを伝えるには、想像力と食材が好きな気持ちが必要ですよね。それと同じで、日本語の歌詞を英語にするためには、音楽自体がすごく好きじゃないといけないんだと思います。今回、英語で歌詞を書きながら、『音楽、芸術が大好き!』という自分の気持ちも改めて思い出すことができました」

みんなが想像してるナノと実際のナノが一致してるのかもわからなくて、苦しかった時期もありました


――メジャーデビューした頃は、どんな心境でした?

「『やっとこの日が来た』っていう気持ちでしたね。1stアルバムの『nanoir』でデビューした時は、今までの経験、苦しみとかが、やっと1個の形になる瞬間でした」

――デビューとか何も決まっていない頃に、シンガーになりたいという一心で、当時住んでいたアメリカから日本に来たんですよね?

「はい。何も決まってなかったですからね。日本に来た頃に『シンガーになりたい』って思い描いていたことと、デビューした時の形というのは、全然違ってたんですけど。だから「自分をどうやって育てていこう?」って手探りするような感覚が、デビューしてからはありました」

――もともと思い描いていたシンガー像と、デビューした時の自分の違いって?

「自分はアニメが大好きで、ずっと観てましたし、アニメの主題歌に憧れてた部分はあったんですけど、『アニメの曲を歌うシンガーになる』っていう目標を持ってたわけではなかったんです。もともとイメージしてたのは、いわゆる『シンガーソングライター』っていう感じだったので、顔を出さないネットシンガーみたいな形でアニメの曲をたくさん歌っていくというのは、まったく想定してなくて。だから、『これは本当に自分なんだろうか?』とか、アイデンティティに迷ったところはありました」

――メジャーデビューしてから数年は、顔を公の場には出していなかったですよね。

「はい。外から見ると成立はしてたと思うんです。『顔を出さないミステリアスなナノというシンガー』というような感じで。でも、こっち側としては人間だし、顔はあるじゃないですか。だから、外から見たナノの印象と、自分が感じてる自分の印象が全然一致してなくて。みんなが何を求めてるのかも、これが正解なのかもわからなかったし、みんなが想像してるナノと実際のナノが一致してるのかもわからなくて、苦しかった時期もありました。でも、ひとつだけ確かだったのは、『歌い続けなければいけない。それだけが自分の使命だ』っていうことでしたね。だから多少苦しくても、多少わからないことがあっても、歌い続ければなんとかなるって思ってました」

――実像を出さないというのは、そういう苦しさがあるんですね。

「はい。『実在しちゃったよ』って、がっかりさせてしまうのかもしれないという自信のなさもあって、『このまま実在しないほうが、みんなは嬉しいんじゃないか?』みたいなことも思いました。でも、それは不可能でしたね。活動すればするほど自分の中で『人間として、アーティストとして、もっとこうやりたい。想いを込めたい。もっとナノらしくやりたい』っていう欲も出てきました。だから必然的に顔を出さなきゃいけなくなったし、変化が必要だったんです」

次のページ自分が一番本領を発揮できるのが歌だと思うので、そういう瞬間に自分のバトルモードが発動する
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