新たなフェーズに踏み出したペール・ウェーヴスに大注目! 信仰にも似た気高い「愛」をストレートに歌い上げた最新作『Who Am I?』に迫る

新たなフェーズに踏み出したペール・ウェーヴスに大注目! 信仰にも似た気高い「愛」をストレートに歌い上げた最新作『Who Am I?』に迫る

2018年リリースの前作『My Mind Makes Noises』では潔いまでにインディ・ギター・ロックとシンセ・ポップを鳴らし、狂おしいまでの情熱を見事なポップ・ソングとして歌い上げてみせたペール・ウェーヴス

2019年から新作制作を開始していることが伝えられていたが、遂に約2年半ぶりの新作『Who Am I?』が2月12日(金)にリリースされる。今回なによりも重要なのは、作曲へのアプローチが根本的に変化したということ。その新たな体制でようやく完成したのが今作なのだ。


作曲面でのアプローチの最大の変更点は、これまでの楽曲がすべてリード・ボーカルのヘザー・バロン・グレイシーとドラムのキアラ・ドランの共同で書かれていたのに、今回はヘザーがLAをベースに活動するソングライターのサム・デ・ヨングとともに書いた楽曲が主軸で、キアラと書いたものは11曲中3曲となっている点。

もともとこのバンドはヘザーとキアラが核となって結成されたバンドなので、これは大きなシフト・チェンジだといえるし、その根本的な路線変更はそのまま今度のアルバムのサウンドにも如実に表れている。

では、どうしてヘザーはキアラとの作曲タッグを減らしたのか。それは端的に言って、ふたりとも大人になってしまったからではないだろうか。ファースト『My Mind Makes Noises』そのものが、バンドが過去へと置いてきた若かりし日々の賜物で、それはどこかドリーミーなポップとして見事過ぎるほどに仕上がっていた。それはまさにヘザーとキアラの青春のほとばしりそのものだった。

新たなフェーズに踏み出したペール・ウェーヴスに大注目! 信仰にも似た気高い「愛」をストレートに歌い上げた最新作『Who Am I?』に迫る

当初、ヘザーとキアラはセカンド制作に入る前にEP制作を試みていたが、その後、バンドはEP制作を見送ったことを明らかにしている。ヘザーはその間、キアラと試みた楽曲群がしっくりいかなかったことを今回明らかにしているので、キアラと離れてみた後で今回の楽曲群が溢れ出てきたのだろう。

どういうことかというと、今回の楽曲群でヘザーは、いまだかつてないほどに自身と向き合う必要を感じたということで、それはキアラとの共同作業ではあまりうまくいかなかったということなのだと思う。

たとえば、今回ヘザーはソングライターのサム・デ・ヨングとのコラボレーションを多く重ねているが、これはあくまでもヘザーの作曲をサポートするという意味でのコラボレーションだ。でも、キアラとのコラボレーションでは、ヘザーの方からキアラに注文をつけづらい時もあるはずだから、今回のような自身の心の奥底を探るような作品については、キアラと離れて作曲に向かいたかったのかもしれない。

いずれにしても、ヘザーの今回の新しいモードを最もよく体現しているのがシングルとして先行リリースされた“She’s My Religion”。目一杯のオルタナ感で溢れる、モダン・ギター・ロックとなった楽曲に乗せてヘザーが相変わらずキャッチーな節回しで歌うのは、自分の相手への信仰にも近い気持ちだが、ここでヘザーは明解にその相手を「彼女」と綴っている。

ヘザー自身もこの曲は同性愛について歌っていることを明らかにしているが、たとえば前作でも同性愛を匂わせるものはいくつもあった。ただ、それは「あなた」という呼びかけしか使われないので、どこまでも曖昧でもあった。それを「彼女」とはっきり言い表していくことこそ、今回のアルバムでヘザーが必要としていた試みだったわけだし、今回のオルタナティブ感に溢れたギター・ロックも、ある意味で自分自身と対峙する、という今作のテーマにふさわしいものなのだ。

なお、この曲のミュージック・ビデオでは、実生活でのパートナーでアーティストのケルシー・ラックと共演しているところにもヘザーの意気込みがよく感じ取れる。


収録曲の多くで「関係」について歌っているところは前作と同じかもしれないが、アルバムの前半は“Change”、“Easy”など今作の特徴的なオルタナ・ギター・サウンドで押しまくる展開となっていて、その「関係」の危うさを見事に音と歌詞で形にしてみせながら、圧倒的な説得力を持つボーカルでたたみかけてくるところが最大の魅力と言える。

そのためにプロデューサーにリッチ・コスティーを起用したのだろうし、コロナ禍にあって、LAに滞在し続けたのもなんとしてでもこの音を形にしなければならないと思ったからだろう。ただ、レコーディングに際してギターのヒューゴ・シルヴァーニとベースのチャーリー・ウッドはイギリスに残ったままリモートで音源をやりとりしたものの、キアラはやはりヘザーとLAに居たそうなので、やはりバンドの核がこのふたりのままなのは間違いない。

このアルバムの内容はまさにタイトル通り、ヘザーが「Who Am I?」というテーマを探るものになるわけだが、この最も重要なテーマ・ソング“Who Am I?”はヘザーが歌い上げるバラードで、これはキアラとの共作になっているところもまた、ふたりの絆が変わっていないことを窺わせるのだ。(高見展)


提供:Dirty Hit
企画・制作:rockin'on 編集部
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