コールドプレイ @東京ドーム

コールドプレイの初来日から17年目にして、初めて実現した東京ドーム公演である。これまでフジロック、サマーソニックでのヘッドライナーは経験しているものの、彼らが5万人規模の日本のオーディエンスを単独で迎えるのはもちろん今回が初めてだ。

コールドプレイは海外では10年以上前から既にスタジアム・バンドとなっていて、彼らのライブはスタジアムを「基準」に構成されてきたものだっただけに、コールドプレイをようやく本来あるべき姿、環境、スケールの中で体験できた今回のドーム公演は、コールドプレイにとっても、私たち日本のファンにとってもまさにメモラブルな一夜だったのだ。

コールドプレイ @東京ドーム - pic by Teppeipic by Teppei
今回のドーム公演は、彼らの最新ワールド・ツアーのアジア地域での最終公演だった。オープニングは彼らがこれまで回ってきた国々を地図上でマークしながらカウントダウンされる趣向で、そのマークが日本、そして東京に到達したところで1曲目の“A Head Full Of Dreams”が一気にバーストする。一斉に点滅するザイロバンド、巨大光源と化したスクリーンに照らされた花道を疾走するクリス・マーティン、そしてそんな彼に降り注ぐように吹き荒れる虹色の紙吹雪と大歓声!

のっけから助走なしのクライマックスに圧倒されていると、手首に巻いたザイロバンドが黄色く点滅し始め、その名もずばりの“Yellow”へ。すっかりおなじみとなったザイロバンドだが、こうして5万5千人で埋め尽くされた巨大ドームで見事に同期して光る様は、やっぱり尋常じゃなく興奮する。ちなみにステージには3つの円形(花弁の形にも見える)の巨大スクリーンが設置され、客席のオーディエンスをリアルタイムで映しながら、ショーの全編を通じて頭がクラクラするような色と光の供給源と化していた。ステージからスタンドに向けて、無数のラインを交錯させていくレイザービームの演出も圧巻だ。前回来日がキャパ3000人のTOKYO DOME CITY HALLだったこともあり、コールドプレイのライブ演出が100%実現された今回とのギャップが凄まじいことになっている。

クリスのピアノとアコースティック・ギターで始まる“The Scientist”は、直前までテクニカラーで彩られたポップな世界から、ナチュラル・カラーの言わば印象派的油絵の世界への移行のはずなのだが、ピアノとアコギとクリスの声が直前の“Every Teardrop Is A Waterfall”と同じくらいハイファイに聴こえるのが驚きだ。

コールドプレイのライブで改めて確認すべきことは、彼らの演奏それ自体は驚くほどシンプルだということだ。技を見せつけるようなアレンジはないし、手数の多さで圧倒する展開もない。ギターがギター以上の主張をすることもなければ、才能豊かなマルチプレイヤーであるウィルのドラムなんて、教則本の最初のほうに出てきそうなシンプルさだ。それなのに、ライブで現前するのは圧倒的な密度と情報量の空間なのだ。

これは『X&Y』以降の彼らのスタジオ・ワーク、高い天井やがらんどうの広大な空間を想定し、その中でも音の響きに徹底してこだわりながら配置し、組み立てていったグラウンド・デザインがあってこそだし、ライブでの過剰な光と色の演出も、そのグラウンド・デザインの配置の一部として必須なのだということが、今回のドーム公演での発見だった。

コールドプレイ @東京ドーム - pic by Teppeipic by Teppei
ティエストのリミックスによるEDMバージョンでアリーナを揺らした“PARADISE”を終えたところで、メンバーが花道で繋がれた円形のセンター・ステージに移動、“Always In My Head”が始まる。ここからの数曲は言わばチルアウトのセクションだったのだが、いったん地に足付けて落ち着くというよりも、むしろ直前までの激しい昂揚がふわふわと浮き上がるような陶酔に転じただけで、チルアウトが本当の意味でのチルアウトにならないのが面白い。

そして恐らくそれと同じ理由で、“Viva La Vida”や“A Sky Full Of Stars”のような問答無用のアンセムが、今回のライブでは突出したピークポイントにはならなかったのも特筆すべき点だろう。それは、これらの曲が本来のレベルで盛り上がらなかったからではなく、むしろ“Viva La Vida”や“A Sky Full Of Stars”の過剰なまでのカタルシス展開が、今回の東京ドーム公演ではもはや全編を通じての「平熱」になっているように感じたからだ。

モハメド・アリの演説をフィーチャーした“Everglow”は、教会のステンドグラスのような荘厳な映像と相まって、この日の公演で最初のピリオド曲となっていた。

コールドプレイ @東京ドーム - pic by Teppeipic by Teppei
そしてこの日のライブで最も印象的だったのがその後の展開、“Clocks”からアンビエントな“Midnight”へ、そこからEDM&ヒップホップでパーティー仕様にアゲにかかる“Charlie Brown”と“Hymn For The Weekend”へ、そして美メロの極地“Fix You”へ、そして最後に再び“Midnight”へと循環するセットだった。

つまりそれは、かつての彼らの代名詞であった美メロも、異質だった哀しみのアンビエントの時代も、そして最新の桁外れにポジティブなEDMサウンドも、そのすべてが平等に鳴らされ、一期一会のライブの中でただひとつのサウンド、喜びの瞬間と統合されていくということだった。特に前作『ゴースト・ストーリーズ』の闇と哀しみが、この溢れ出る多幸と極彩色の空間から排除されるのではなく、むしろ光に向かって引き上げられていくのが感動的だったのだ。

色とりどりのバルーンが放たれてのファンキー&ゴージャスな祭り状態となった“Adventure Of A Lifetime”の余韻で惚けている間に、メンバーは花道下を移動してバックスタンド席真下のステージに登場、そうして始まったアコースティックでの“In My Place”はもちろん場内大合唱、これこそが「シンガロング」のお手本!というべき盛り上がりだ。

「今日のベーシストは…いや、《今日の》っておかしいよね(笑)。彼は20年ずっと僕らの最高のベーシストであるガイ・ベリーマン!」と、クリスの相変わらずのプチ天然が微笑ましかったメンバー紹介を挟み、ウィルとジョニーがリード・ボーカルを担当した“Don’t Panic”、ガイがブルーハープで華を添えた“Til Kingdom Come”と、4人のケミストリーの原点を見つめ直したこのシンプルなアコースティック・セットも素晴らしかった。

コールドプレイ @東京ドーム - pic by Teppeipic by Teppei
そして再びメンバーがメイン・ステージに戻り、「次の曲は僕らが初めてプレイする曲だよ、東京オンリー!」とクリスが紹介し、世界初披露となった“All I Can Think About Is You”が始まる……のだが、クリスがマイクを置き忘れてくるという初歩的なミスによってイントロから仕切り直しに。「今のは絶対YouTubeにアップしないで!僕らだけの秘密ってことにしておいて!」とお願いするクリスには笑ってしまったが、彼らはここまで終始リラックスした様子で満員のドームと向き合っていた。

6月リリースの『カレイドスコープ EP』に収録される“All I Can Think About is You”は、今回のライブ・バージョンを聴くかぎり、コールドプレイにとってかなり新機軸な楽曲だと言えるだろう。リズム・ループとピアノのミニマムな出だしから一転、後半はジョニーのギター・ソロといい忙しなくタム&スネアを行き来しながらパワフルにロールしていくウィルのドラムといい、演奏力それ自体をここまで全面に押し出した筋肉質なコールドプレイのナンバーは珍しいだろう。

彼らの最新ヒット曲であるザ・チェインスモーカーズとのコラボ・ナンバー“Something Just Like This”は、ばんばんパイロが吹き上がる最強のパーティー・チューンとして鳴り、“A Sky Full Of Stars”ではダメ押し的に紙吹雪が吹き荒れた後、ゆっくり、そして丁寧に、フィナーレの感慨を噛み締めるようにプレイされた“Up & Up”も感動的だった。

ファンからもらった「LOVE」と書かれた旗と日の丸を並べてステージに置き、クリスがその日の丸にキスをしてステージを降りたコールドプレイ。どよめきのような、ため息のような息づかいで満たされたドーム、余韻と呼ぶには熱も興奮も収まりきっていないその終演後の5万5千人の風景が、コールドプレイ初のドーム公演の歴史的意味を物語っていた。(粉川しの)

コールドプレイ @東京ドーム - pic by Teppeipic by Teppei

〈SETLIST〉
ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ / A Head Full Of Dreams
イエロー / Yellow
ウォーターフォール~一粒の涙は滝のごとく / Every Teardrop Is A Waterfall
サイエンティスト / The Scientist
バーズ / Birds
パラダイス(リミックス) / Paradise “Remix”
オールウェイズ・イン・マイ・ヘッド / Always In My Head
マジック / Magic
エヴァーグロウ / Everglow
クロックス / Clocks
ミッドナイト / Midnight
チャーリー・ブラウン / Charlie Brown
ヒム・フォー・ザ・ウィークエンド / Hymn For The Weekend
フィックス・ユー / Fix You
美しき生命 / Viva La Vida
アドヴェンチャー・オブ・ア・ライフタイム / Adventure Of A Lifetime
カレイドスコープ / Kaleidoscope
イン・マイ・プレイス / In My Place
ドント・パニック / Don’t Panic
ティル・キングダム・カム / Til Kingdom Come
オール・アイ・キャン・シンク・アバウト・イズ・ユー / All I Can Think About is You *新曲
サムシング・ジャスト・ライク・ディス / Something Just Like This
ア・スカイ・フル・オブ・スターズ / A Sky Full Of Stars
アップ& アップ / Up&Up
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